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    思い出の生徒(1)

    • 2011.05.10 Tuesday
    • 01:30
     

    彼の母親は米軍軍属のアメリカ人と再婚し、子供もできていた。彼の父親とは離婚していた。彼女はずっと息子には一流大学に行くことが、人生のステージを上げていくことだと小さいころから言い続けていたらしい。

    その問題が明らかになったのは、志望校調査のときだった。彼が書いてきた学校はどれも彼には到底届かない学校ばかりであった。事情を聞いても、とにかくこれ以外は受けたくないの一点張り。私は事情がわからず、彼の母親にきてもらい話を聞いた。

    そこでわかったのは、彼の孤独であった。母親は再婚し子供もいて、自分は幸せだといっていた。幼い妹はアメリカ国籍をもち、将来はアメリカで暮らすと言っていた。彼女が話す夢のような物語に、彼の立ち位置はなかった。

    なかなか聞かなかったが、それでも必死に説き伏せて、滑り止めを受けさせることにせいこうしたが、本人が希望している高校は予想通り落ちた。進学先が決まった数日後、母親から面談したいという電話があって、時間をとった。

    来校した母親は、半ば狂乱状態。彼の言動が異常をきたしていると。その場で本人を呼んでもらったが、確かに「逝っていた」。ただ、私と話すときだけは、いつもの彼であった。既に塾は卒業していたが、ここまで来たら面倒みるしかないので、精神科医のカウンセリングを受けてもらい、母親とアメリカ人の義父との軋轢を避けるために、母親を説得し、彼に一人暮らしをさせた。

    結局それが良かったのか、高校もきちんと通い、何かを思いつくと、思い出したように私のところを訪ねてきた。相変わらず足が地につかない上昇志向は消えなかったが、私の転勤先にも訪ねてきた。最後に会ったのは彼が27歳のとき。大学を出ていろいろな職を転々としながら、夢のようなことを語っていた。以来、8年もう会っていないが、最後に会った時の目の輝きはやっと彼が12年の歳月をかけて自分の道を見つけた喜びを表しているような気がした。

    あの時、オーストラリアに行けよって私が言ったけど、ホントに行っちまったのかな。また、突然私の携帯に電話がかかってくるかもしれないね。

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